142.energy flow 自由が丘大人の音楽教室(自由が丘のフルート教室)フルート講師・佐藤結香の演奏でお楽しみください

142.energy flow 自由が丘大人の音楽教室(自由が丘のフルート教室)フルート講師・佐藤結香の演奏でお楽しみください

 

イ短調の調性感が強い作品である。坂本龍一の曲の中には明確な調性が打ち出されないものも多いが、《Energy flow》は左手の分散和音や3度音程の強調、導音の使用などにより調性が浮き彫りとなっている。

 

この作品はテレビコマーシャルに用いられたため、知名度はかなり高い。

 

1999年発売のCD『ウラBTTB』には、《Energy flow》を含む3曲が収録された。「BTTB」は「Back to the basic」の略であり、原点に帰るという意味合いを含み持つ。『ウラBTTB』に収められた作品を概観すると、坂本の「原点」には素朴かつ情動的なピアノの音があると推測できる。

 

作品をより深く理解する一助として、以下に作曲者自身の言葉を引用しておきたい。

まず、《Energy flow》の作曲に関する記述のなかに、「さらさらっと5分ぐらいで作ったピアノ曲で、ポップがどうとかいうことは何も考えず、ただ書いた曲です」(坂本、2009208)という言及がある。

 

この頃坂本は、自身の考える「ポップ」な音楽が、レコード会社を含む多くの人々にとって「ポップ」ではないことに愕然とし、創作態度を模索していた。しかし結果としては、考えて作り込んだ作品よりも、自然にできあがった作品のほうが一般に好まれたようである。

 

また、別の機会には「自分のピアノ曲がヒットしたとき(1999年の《エナジー・フロー》)に『癒し』などという言葉を使われて、ひじょうに迷惑して(笑)……『癒し』という言葉から感じる欺瞞を、ぼくもいつもほんとうに不愉快に思ってきたんです。」(坂本、201120)と発言している。「癒し」とは何かということを真剣に考えているからこそ、安易に「癒し」という言葉を用いることに抵抗を覚えたのであろう。

 

演奏時には、淡々と弾き進めていきながらも、漸次高まりゆく緊張感と音の密度を感じる。属和音が主和音に解決したり、和音転回形の反復進行が続く部分は、調性を意識しながら弾きたいところである。楽曲全体を鳥瞰した上で、デュナーミクを理解し奏することにより、この作品が単調でなくゆるやかな変化に満ちていることに気づくことができる。(ピティナ・ピアノ曲辞典より)